高3「アウシュビッツと現代」

高校3年生にする「アウシュビッツと現代」という一連の授業の流れを気に入っています。

まず、一回目の授業は「夜と霧」という名のビデオを見ます。簡単にこのドキュメント映画の歴史的背景を説明してから、このビデオの上映になります。

このビデオはフランスのアラン・レネ監督が1955年に作成しました。第2次世界大戦中に。ドイツがユダヤ人などを強制収容し、大量死の舞台となった場所のドキュメントフィルムで構成されています。 大量の死体をブルドーザーで埋めているような凄惨な場面が出てきて、これを見た生徒のなかには保健室に行くような生徒も出てきますが、それでも見ます。30分くらいの映像です。

2回目の授業では、ビクトル・フランクルの「夜と霧」という文章を読みます。この文章はアウシュビッツを生きながらえた精神科医の体験記録です。私はこの文章を読む前にこう生徒にいいます。

この文章はきわめて読みにくい、三重苦を背負った文章である。
ひとつ目の「苦」はこの現実が醜い。この前見たビデオが映し出した現実について書かれている。
二つ目の「苦」は。原文のドイツ語が難解である。ドイツ語特有の表現がいっぱいである。
そして三つ目の「苦」は翻訳が読みにくい。
しかしそれでも読む勝ちのある読まなければならない文章だと思う。それはこの本が、こういう過酷な現実の中にいても生きることのすばらしさを説き、希望とか自由とか人間の尊厳とか信仰とかの本当の価値とすばらしさを表現しているからである。醜い現実のドロの中にきらっと光るダイアモンドのきらめきを見つけるからである。
この本はこの三重苦のゆえに、ひとりで読むと必ず挫折する。だから集団でよまなければならない本なのである。

三回目の授業では、このドキュメントフィルムを見たアメリカの高校生たちの話しから生まれた小説「ザ・ウェイブ」を読みます。といっても全部ではなく抜粋を読んでいきます。
原作はアメリカの高校が舞台ですが、ドイツが最近この小説を映画化しています。
この映画を見た生徒たちはどうしてこんなことがドイツで起きたのか信じられず、アメリカでは決してこういうことはおこらないだろうと述べました。
そこで歴史の先生がある実験授業を思い立ち、かれは実際にこの高校にファシズム的な状況をつくりだしてしまうのです。
この映画の中でこの動きに抵抗する新聞部の生徒がいました。小説は彼女の生き方を追っています。

四時間目は、この新聞部の生徒と同じように、ファシズムに抵抗した若い女性を紹介します。「白バラは散らず」のソフィー・ショルです。

彼女が書いたチラシ「白バラ通信」の原文を読みながら、この抵抗運動を紹介します。最近「白バラ抵抗運動」の映画が再び公開されました。この映画も感動的な映画だと思います。

5時間目は、ファシズムに抗した人たちの生き方を紹介します。「シンドラーのリスト」のシンドラー、スウェーデンの外交官ワレンバーグ、コルベ神父、ドイ ツ福音主義教会の牧師でヒトラー暗殺計画に加わり殺されたディートリヒ・ボンヘッハーや日本人の杉原千畝らを映像を使ったり、文書を読んだりして紹介しま す。

第6回は「ファシズムはどうして生まれたのか」というテーマで、アドルノの「権威主義的性格」や日本の「大政翼賛運動」などを紹介し、現代にもファシズムが生まれやすい 状況があることを説明します。

第7回は最後の授業です。 「荒野の40年」(ヴァイツゼッカー演説から)を読みます。ドイツの大統領としての演説の中から「過去に目を閉ざすものは現在に盲目とな る」「心に刻む」ということを読みとっていきます。

こういう一連の授業である。生徒たちのこういう悲惨な歴史の中を生きぬいててきた人たちの生き方を紹介し、人間の尊厳を理解してほしいと願って組んだ授業である。

社会科の授業ならば、こういう歴史の過酷な現実と流れを紹介し、それが生まれた社会的背景を理解するのが目的の授業となるでしょう。しかし倫理の授業としてはこういう歴史を生き抜いた人の生き方と思想を紹介するのが目的となります。

次へ
このページのトップへ