東星学園小・中・高等学校長  加勇田修士先生 

 まず最初に「キャリアアンカー」ということばを紹介したいと思います。
 「自分に神から与えられた使命」という意味で、カウンセリングでは人生をつなぎ止めるいかりのことを意味します、これが必ず一人一人にあると思っています。
 この言葉は、進路相談のときに子どもにエネルギーをあたえ、とくに立ちすくんでいるときにスタートするきっかけをあたえる言葉だと思っています。
 私は、もともとは水産高校で海の指導からはじめた11年間が最初で、物理の教師として10年間、都立高校で専任のカウンセラーをしていた12年間の教員生活をしてきました。公立につごう33年間勤務したことになります。
 それが、知り合いの神父にすすめられて校長になり、その使命を受け入れて、4つ目のキャリアとなりました。
 仕事が変わるときに捨てられないというなにか、それが「キャリアアンカー」なのですね。NHKの「プロジェクトX」にみられるような研究開発者魂、会社を経営するというマネジメント、安定した生活をおくるという安定志向、人を喜ばせるということなどの変化に富んだ仕事、おまわりさんとかのようにバッチをつけること、ものづくりなどの創造精神、盲導犬の訓練士とかのように自分のこだわりに生きる、などなどこのキャリアアンカーには8種類あってすべての仕事の中にその何種類かが含まれています。たとえば、校長という仕事の中にはマネージメント、プロジェクト、人とかかわるという3つのアンカーが含まれていますが、東星学園の校長になって9年目の私の場合、次の仕事に変わるときに捨てられずに残るアンカーは「人とかかわる」だと思います。つまり、この年になって私を人生(キャリア)につなぎ止めるアンカーは「人とかかわる」ということがはっきりしてきました。
 本校はパリミッションのフロジャク神父によって創立されました。かれは結核患者の面倒をみるということからはじめて、ベタニア修道女会をつくりました。その後、医療、福祉、教育にミッションが発展していきました。だから、この学校の特徴として、同じ敷地の中に同じ創立者の下に創立者の理念を受け継いだ病院、児童養護施設、老人ホーム、幼稚園、学校があるのです。
 学校ではキリストの愛の精神に基づいた人格の形成を目標にしています。
 この目標はカトリック学校はどこも同じでしょう。この学校がその理念をどう活かしているかは、この立地条件に大きく関わっています。養護施設の子は無試験で受け入れるとか、准看護婦を養成するために衛生看護科がもうけられていたとかの福祉的な理想をもっているところに特徴がありました。
 私が校長としてこの学校に赴任してきたときは、生徒数の減少が著しく、学校の立て直しが急務の時でした。そのころは、衛生看護科の廃止で普通科だけの女子校となっていました。したがってまず校長として着手したことは「共学化」ということでした。
 でもいきなり上からの指示で「共学化」はしませんでした。2002年に着任して5年間話し合いを積み重ねました。お互いに話し合って自分達で決めたことでなければなかなかモチベーションが上がりません。
 そのために、会議の進め方の研修を提案したりしました。幼稚園、小、中、高は運命共同体みたいなものですから、最終的には合同職員会議で決めました。採決をして1票差できまりました。
 共学にふさわしい理念を4つ目標にもうけました。これも教職員全体で決めたことです。
 それまでの女子校としての中高の教育目標は「美しい人(誠ある人、優しい人、賢い人)」というものでしたが、共学化に伴ってそれを次のような4つの目標に変えました。
誠実な人
努力する人
自立した人
奉仕の精神を持つ人
それぞれに聖書の意味づけを行いました。聖書を目標ごとに読み込んでこの内容をつくりました。

「誠実な人」というのは神様に愛されているかけがえのない存在ということに感謝して誠実に生きるということで宗教教育の目標です。宗教の授業はもとより毎週の聖書朝礼の時間などがこの目標達成に直接関わります。校長は週1回、聖書の話しをすることになっているのですが、素人のわたしとしてはそれが辛かったです。でもふりかえると聖書の話しをするために聖書を深く勉強できたように思います。
「努力する人」 それぞれに与えられた使命の実現のための学習に努力し、そのために進路実績をあげることにも力をいれました。これが実現しないと募集効果も上がりません。受験校としてではなく、結果として進学実績上位校になることを目指しました。
「自立した人」という目標で今強調していることは、人間関係能力を身につけるということです。聞く力、話す力、問題解決能力、トマス・ゴードンの「私メッセージ」をベースにしたこの3つがないと現代という難しい時代を生きていけません。
 最後の「奉仕の精神」はカトリック学校では一番大事な目標かもしれません。人間の生き方には二つあります。人に仕える生き方と人を利用する生き方です。カトリック学校ではもちろん前者の生き方を生きがいと感じる人を育てることです。そのために体験学習の場として同じ敷地に病院、養護施設や老人ホームがあることは恵まれています。
 昼休みのあとの1時から20分間、沈黙の掃除の時間が設けられています。管理職の先生の短い話しで始まり中1から高3までの縦割りの交流をしながら黙って掃除をします。6年間の交流の機会は、学年を越えたつながりをつくり、学校はピカピカになり、奉仕の精神が身につきます。

 職員の研修として年に一度の黙想を大事にしています。今日も職員黙想会をしてきました。
 もうひとつ、校内研修として教育カウンセリングの研修を取り入れています。
 「教師はモデルにならなければならない」。教師の具体的なスキルとして、カウンセリングのこころを取り入れています。カウンセリングは生徒指導と同じだと思っております。
 わたしの指導と先生の指導が違ったこともありました。
 6年生の修学旅行には一日目にお金を預けることになっているのですが、ある児童が自動販売機でコーラを買ったのです。体育の先生が「こらっ」とユーメッセージで叱るとその児童は自動販売機をけっとばしただけだと言い訳をして。指導を受け入れないのです。彼はそんなことしていないとずーっと言い張りました。予選、準決勝(担任)と指導がうまくいかず校長が介入(決勝)することになりました。
 カウンセリングの心を知っている私は、生徒指導のしかたがその体育の教員とは違っていました。この場合「わたしメッセージ」の方が効果があると知っています。
 「あ、そう。自動販売機が壊れたかもしれない、支配人に謝ってあげよう。」といいました。これを「ワンネス」といいます。相手の世界を相手の目で見るかかわりです。
 次に大事なことは信頼関係をつくることです。「ウィネス」のかかわり、私はあなたの味方だよという関係をつくります。
 「修理代がかかるよね。 おとうさんに連絡をする必要があるよね。じゃあ、お父さんに電話してあげよう。」
 いままでの指導と正反対のアプローチをしました。
 そうしたら、父子家庭の児童だったのですね。そのあと、夕食はいつもひとりで「ホカベン」を食べているという話を聴いて「さみしいね」といったら涙をこぼしました。さらに「最初に『けっとばした』と言ってしまったので途中から本当のことを言えなくなったの」といったら、「うん」といったのです。こうしてその児童は反省モードに入ったのですね。この最後の切り込みを「アイネス」と言います。
 このようなメソッドは「教師学」といわれています。そのメソッドを開発した人の名前を取ってトマス・ゴードン・メソッドともいいます。「ワンネス、ウィネス、アイネス」はムスターカスの実存主義的なカウンセリング方法です。
 これには、子どもとの関わりをつくること、聞く姿勢をもつこと、そしてわたしメッセージで話すことなどが強調されています。それを研修をすることによって身につけていくとそれが「自分自身がモデルになる」ということです。
 またそれは子ども同士の人間関係をつくるためにも役立ちます。学年のはじめに構成的グループエンカウンターをとりいれてクラスづくりをします。こういうことをとおして人を大切にするためのスキルをみにつけ、問題の起きない学級作りをめざします。カウンセリングは問題が起きたときのスキルと思われていますが、それだけでなく実は問題を起こさないための理論・スキルを身につけることの方が大切だと思っています。
 もう一つ大事にしているのは、先生方が孤立しないシステムをつくることです。
 時間割の中に週1回関係職員が集まる定例の校内委員会を設けています。生徒指導の問題やカウンセリングが必要なケースは、校内委員会で取り上げられます。そこには管理職、カウンセラー、養護教諭、関係の担任などが一堂に会して検討します。前のお話しのあった聖園の連絡協議会みたいなものだと思います。
 校長としての私の役割はその場でのスーパーバイザーだと思っています。これによって、問題が起きても深刻になる前の早いうちに解決できる態勢ができました。

質問
−「わたしメッセージ」とは?
これはカウンセラーとしての習慣です。私メッセージの三部構成といって、事実・できごと、影響そして気持ちをセットにして子どもに関わるということです。事実を共有することは相手を尊重するということでもあります。
「あなたメッセージ」はこうしなさいとかあなたのここがわるいとかいう相手への批判、問責、説教になってしまい、わたしの気持ちは出さないでその場限りで終わりやすいのです。わたしは生徒と接する場合には「あなたメッセージ」はできるだけ少なく、「わたしメッセージ」を多くするようにと先生がたにすすめています。
−教師学というのは?
トーマス・ゴードンという人が書いています。このひとは「親業」についても書いていて、いわばその教師版ですね。
−先生方が孤立しないシステムをつくるためにということでどういうことをされていますか
 まず、わからないことはきやすく聞きにこれるという開放的な雰囲気をつくるようにしました。そしてスムーズなコミュニケーションのとりかたを研修しました。講義を聞くだけの研修ではなく、関わりを築くための構成的グループエンカウンター(略称SGE)のワークショップも行いました。
 そこで強調したことですが、自分の振り返りのためにも用いている考え方を一つ紹介しましょう。「ジョハリの窓」といわれるものです。
 人は4つの窓をもっています。縦軸の左右で自分が知っているかどうか、横軸の上下で他人が知っているかどうかを設定すると4つの自分に分けられます。
 つまり、自分が知っていて他人も知っている開かれた自分のまど。次が自分は知らないが他人は知っている自己盲点のまど、自分が知っていて他人が知らない秘密のまど、そして自分も他人も知らない未知のまどです。
 自分が隠している秘密のまどが多いと不自由で、ホンネが出せないでしょう。これは生徒の前にどれだけ自己開示しているかということとつながります。
 自己盲点のまど、未知のまどは自己発見のためにすることです。
 この「ジョハリの窓」は教師としての自分のふりかえりのために役立ちました。
 自分の思考パターン、おもいこみ、感じ方、行動パターンを知るためには、仲間からのフィードバックを聞かないとできないものです。ホンネの交流ができる自分になりたい、そのためにどうしたらいいかを考えるときに多くのヒントを与えてくれました。
 職員同士ができないと子どももできないものです。
 おかげで、本校では職員としての交流をよくやっているとおもいます。毎年2泊3日の  慈生会グループのSGE研修会では、非日常のなかで仲間の力を借りて、新しい自分の発見をします。学校、老人ホーム、病院、児童養護施設の職員と同じ釜の飯を食べながら研修することによって深い絆で結ばれるという効果が生まれています。

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