5.赤黒ゲーム

 次にもう一つ作業を行います。このエクササイズもとてもスグレモノです。シンプルなルールだけれど、実にこの作業から気づくことの奥深さがあるからです。養成塾ではこれも実際に行いました。
 これは高3で行います。このゲームの奥深さはやはり高3がもっともよく分かるのですね。もっと若い学年でできないこともないのですが、面白がっても気付きは浅いのです。
 まず最初に参加者スタッフも加えて、4つのチームをつくり、それぞれA,B,C,Dチームと名付けます。AチームとBチーム、CチームとDチームがそれぞれ対戦します。つまり2ゲームがついたてをはさんで同時に進行していきます。
 それぞれがいすをもって、部屋の4つのコーナーに丸く座ります。それぞれのチームに赤と黒のカードを1組ずつ配ります。
 さてこれからすることのルールを説明します。
 これから3分間くらい、赤と黒のどちらのカードを出すかをチームで話し合います。3分間話し合って出した結論に従って、代表者がまん中によって、一斉にそのカードを出しあいます。
 それぞれが出したカードの組み合わせによってスコアが決まります。黒と黒を出したときには、両チームに+3点が与えられます。赤と赤を出した時には両チームの得点は−3点です。赤と黒を出した時には、赤を出したチームに+5点、黒を出したチームに−5点が与えられます。そしてこれを9回繰り返します。
 このゲームの目的は最終フレームが終わったときのそれぞれのチームの累積点ができるだけ大きくなるようにすることです。少なくても+にしてほしい。そのためにはどうしたらいいのか、皆で話し合ってみてください。9フレームまであるからボーリングみたいですね。
 では、最初のフレームに入ります。いまから3分間、どちらのカードを出したらいいかを話し合ってみてください。


 
 さて、3分たちました。赤と黒のどちらを出すか決まりましたか? 決まってない場合にはあと1分さし上げますから決めてください。決まっていたならば、代表の方は赤と黒のカードをおってまん中に来てください。出すカードが何であるかは相手に悟られないようにしてくださいね。
 ではいいですか。一緒に出してください。「せーの、はい!」
 それぞれの出したカードと得点を得点表に記入していきます。

 はい、ゲームの終了です。イスをもって、4チームが一緒になって、得点表が書かれたボードを囲みます。
 先ず両チームのスコア表を見てみましょう。
 今までこのゲームを100回くらい行いましたが、そのほとんどはここにあるような展開になります。つまり累積点はマイナスになってしまいます。両方と赤の連続でスコアがマイナス27になってしまうケースもけっこうあります。こういう人たちはなぜこんなゲームをするんだ、こうなることはわかりきっているのにと反発します。
 そして次のような質問をします。質問は3つあります。別の模造紙にでも、応えたことの要約を記録していきます。
「先ず第一に、初めになぜそのカードを出したのか、話し合ったことの内容を報告してください。4チームみなに聴きます」
「出すカードが変わったところを聴いていきましょう。なぜここでカードを変えたのですか?」
「それに対して相手のチームは、それをどう受けとめたのでしょうか?」
「一貫して赤を出し続けたチームは、何を感じていましたか? 赤を出し続けることに批判はありませんでしたか?」
「一貫して黒を出すことを主張した人はいませんでしたか?」
「最後に終わって何を考えましたか?」
 これらの問いかけをしてきます。

そのあとに次の問いかけをします。
 それでは、赤のカード、黒のカードの性質について考えていましょう。赤のカードは……という性質を持ちますが、黒のカードは………という性質を持ちますというように答えてください。
「赤のカードは負けないカードで、黒のカードは勝てないカードです」
「赤のカードは勝ち負けのカードで、黒のカードは共に栄えるカードです」
「赤のカードは競争のカードで、黒のカードは協調のカードです」
「赤のカードは片方だけが勝つカードですが、黒のカードはウィンーウィンのカードです」
「赤のカードは独り占めをするカードで、黒のカードは分け合うカードです」
「赤のカードは相手から奪うカードですが、黒のカードは相手に与えるカードです」
「赤のカードは裏切りのカードで、黒のカードは信頼のカードです」
 いろいろな考えが出されますが、アイディアを出しあうほどに自分たちが出したカードの意味に気づいていきます。

 

 そして第3の問いかけです。ちょっと難しい問いかけかもしれません。このゲームと同じような状況というのが現実の生活や社会の中にどこかにありませんか? 何かピンと来るようなことを思いついたら答えてみてください。
 これは「囚人のディレンマ」といわれるディレンマ(いたばさみ)状態によく似ています。つまり二人の共犯者がつかまって取り調べを受けている状態を考えてみましょう。共犯者が二人共に黙秘すればふたりとも無罪になるかもしれません。どちらか一方が自白したばあい、自白した方は罪が軽くなり、自白しなかった方は罪が重くなります。こういう状況が「囚人のディレンマ」です。
 考えてみたらこういう状況は身の回りにけっこうあるのです。
 高校生がだす典型的なケースは、友人関係です。お互いにケンカしてしまった、非は相手にあると非難している状態は赤と赤のカードを出しあっています。この場合、先に謝った方が黒のカードを出したことになります。ケンカでは負けかもしれません。でもお互いが謝り、ゆるしあうときに黒と黒のカードを出しあう状態になります。
 対話しているときにホンネで分かち合うという黒のカードを出し合えるようになるためには、先ず誰かがホンネを出すという黒のカードを出すことが必要です。その人はそれによって辱めを受けたり傷つくかもしれません。それを非難したり批判したりするのは赤のカードを出すことになります。
 国際関係の中でもよく政治的駆け引きのなかでこういうことが多く見られます。その典型は軍備拡張競争のケースでしょう。お互いに軍備を拡張し会うというのは赤のカードを出し続けていることです。少しでも軍縮の方向に進めることが黒のカードなのです。黒と黒のカードを出しあえば世界から戦争がなくなります。

 3つの問いかけを終わってから、このゲームをして気づいたことを小グループで話し合ったり、カードに書いてもらって次の時間にそれを紹介するというようなことをします。だいたいこんな感想が多く出されます。

 でも、必ず反発も生まれます。とくに「赤をずっと出し続けてきたチーム」からは反発が大きいです。こんな反発です。

 反発はこの種のエクササイズではとても大事です。これにムリに反論したり説得する必要はありません。むしろその反発こそ、このゲームのあり方をめぐる考察を深めることになるからです。
 もういちど「囚人のディレンマ」について説明をします。

 そしてこのエクササイズをとおして、私の方から理解してほしいことを説明します。それは「黒のカードを出す生き方=Giving Way pf Lifeの提案」というものです。

 でも、この生き方は難しいとか「そんなのキレイゴトだ」という批判に答えることも忘れてはいけません。最後にこうつけ加えることにしています。

黒のカードを出す生き方は確かに難しいです。これをするとていたく損をしたり傷つくこともあるでしょう。場合によっては赤のカードを出し続けられてマイナスに大きく沈んでしまうこともあります。だから自分から進んで黒のカードを出すことはとても大変だとおもうでしょう。でもこれならばできるのではないかと思うことがあります、相手が黒のカードを出してきたら、すぐに黒のカードで応ずること、これなら傷つくことは少ないし、自ら黒のカードを出すよりもある意味では黒と黒のカードを出し合えるようにするためには、むしろこちらの役割の方が大事かもしれないのです。問題は、相手が黒のカードを出してきたということを見極めることだと思います。

 囚人のディレンマの説明で「しっぺ返し」戦術が有効であると書かれていることとも符合するのです。
 この最後に強調したことは、最初のころは気がつきませんでした。何回も繰り返して行きながら生徒と考える中で気づいて進化したことだったのです。今考えてみたら、この進化はとても大切な発見だったと思っています。

 

 このエクササイズは、前のペア捜しゲームと共に優れて教育的なゲームだと思います。シンプルなゲームから多くの気付きを時に回心をも呼び起こすことができるからです。

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