4.シルバスタイン「大きな木」

 シルバスタインの「大きな木」という絵本をご存知でしょう。最近村上春樹訳の本が出て話題を呼んでいます。この本の原題は「Giving Tree(与える木)」というものです。
 この絵本を「音響映像」というプロダクションがスライドにしたものがあります。もうこの会社はないのでこのスライドは手に入らないのが残念です。スライドだと劣化変色してしまうので、私はそれをDVDに作り直しました。ここでそれを見てみましょう。
 このスライドのタイトルは「それで木はうれしかった」というタイトルです。
 私たちはこのスライドを中学1年生のオリエンテーション合宿で180人全員に見せることにしています。
 見せたあとに中1の生徒たちにインタビューふうに質問をします。
「このスライドを見て何を感じた」からはじめます。
「この『木』のような人は身近にいるかな」
 この質問は、この学年の中に半数いる清泉小学校の卒業生には最初はあてないことにしています。すぐに「神様」という答えが出てきてしまうからです。この答えが最後に出てくるように工夫する必要があります。最初に出てくる答えは「おとうさん」「おかあさん」「両親」という答えが出てきてほしいからです。もし「神さま」というこたえがでてきたとしても、私はそれを一つだけの正解とはしない。正解の中の一つであるというように答えることにしています。
 ここで問題になるのは、シルバスタインの原作は、この木は女性形で表現されているのですが、このスライドでは「おじさん」であるということです。村上春樹訳でも原作を尊重して女性の口調です。このことを問題にするときは、日本語の訳も一緒に紹介して比較しながら、女性形と男性形とどちらがいいか?生徒にも聴いてみます。スライドのインパクトが強いせいか、けっこう多くの生徒が「おじさんのほうがいい」と答えます。わたしもこの「おじさん」のほうがいいと思うのですがどうでしょうか。
「この木は本当にうれしかったのか、幸福だったのか」という質問もいい質問です。とちゅう、1回だけ幹を切られてしまったときに「けどそれはほんとうかな?」と揺らいでいるところがあるからです。村上春樹訳は「それで木はしあわせに………なんてなれませんよね」と訳しています。ここのところ原文では「And the tree was happy……but not really.」となっています。
 最後に聴く質問です。この問いかけは、このスライドだからできる問いかけです。絵本ではできません。

「この本のタイトルは、シルバスタインの原作は『Giving Tree(与える木)』です。日本語の訳は『大きな木』、それに対してこのスライドは『それで木はうれしかった』なのですね。この3つのうちでどれがこの本のタイトルとして一番いいと思いますか?」

 もとよりこの問いかけには正解がありません。著者がつけたタイトルがもっともいいだろうというのもわかります。でもあえてどれがいいかを聴くと『それで木はうれしかった』がけっこう多いのです。私もこのタイトルがもっともいいと思っています。
 そこで次の問いかけです。

「このスライドのタイトルだけれど、『それで木はうれしかった』となっているけれど、『それでも木はうれしかった』というのにしたらどうだろうか?」

 この問いには、生徒は圧倒的に『それで木はうれしかった』のほうがいいと答えるのですね。その理由は「それでも木は」とするとなにかムリをしているように読めてしまう。もっと自然なほうがいい」と答えます。
 この話は次のように締めくくります。

「人の生き方の幸せには二通りあると思います。その一つは何かをゲットする幸せです。英語では Getting Way of Life といいます。富とか名誉とか権力とかを手に入れることによって、幸せになるという生き方です。幸せをこのように理解する人が多いですね。
 でもこの学校ではもう一つの幸せを求めていきたいと思っています。それは与える幸せ、わかちあう幸せです。この木のような幸せなのです。Giving Way of Life といいます。その幸せをこの学校の中でぜひ見つけてください。それはおそらく実際に体験してみないと分からない幸せだと思うのです」

 横浜の「有隣堂」という本屋が発行している「有隣」というブックレットの2010年7月号に『読み聞かせで育む想像力』というタイトルの森内直美さん(絵本紙芝居研究家)というかたの文章にこんなことが載っていました。

「高校、大学とカトリックのミッションスクールに通っていた私は、神父様やシスター方の教えに共鳴。Joy of Giving(与える喜び)を人生の指針にするようになりました。」

 この指針に従って彼女は絵本を子どもたちに読み聞かせるという仕事をするようになったということが書かれていました。
 そうそうこれなんです。ミッションスクールで学ぶことのできるもっとも素晴らしいものは。この記事を読んでおもわず拍手したくなりました。

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